行為依存と刑事弁護
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人事件では,動機に幻覚や妄想が存在したり,犯行態様が不必要に執拗で残虐であることがあります。このような犯行動機や犯行態様の異常性から,素朴な違和感をキャッチし,障害があるかもしれないと気づくことは,その病気に関する知識がなくても,比較的容易であるといえます。 他方で,性依存症患者による性犯罪の場合,一見すると,動機は自己の性的欲求を満たすためであるということで説明可能なようにみえます。そのため,動機から違和感をキャッチしにくいという側面があります。仮に,性的欲求の充足が主たる動機でないとしても,性依存症患者は,事件当時の自己の心理状態をうまく説明できないことが多いため,犯行動機は,性的欲求に基づくものだと安易に思われてしまう危険性が高いといえます。 また,性犯罪という性質上,態様も,性的羞恥心を害するわいせつ行為という形態をとるため,その態様だけを客観的に観察すれば,性的欲求の充足に向けた行為として捉えることが自然に見えるケースが多いです。 そのため,対象事件の動機や態様それ自体から違和感をキャッチし,性依存の問題に気づくことは難しいのではないかと考えられます。 このように,依頼者との接見を通じた違和感の受け取りにくさが,性依存の問題に対する「気づきにくさ」の背景にあると考えられます。 2つ目は,「性依存の問題を取り上げることに対するハードルの高さ」です。 性依存とは,性的問題行動に対するコントロールを喪失し,やめたいと思っていても衝動に抵抗できずに行為を繰り返した結果,重大な心理的・社会的問題を引き起こしている状態をいうと解されています。 性依存の状態にあることは,行為依存の一類型である心の病気として,精神科領域の治療が必要であると考えられています。16  第2章 性依存と刑事弁護(2) 性依存問題のハードルの高さ

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