行為依存と刑事弁護
32/56

害(盗撮行為)などがあります。 また,ICD-11には,強迫的性行動症という新たな診断概念が加わりました。その定義としては,パラフィリア障害群とはみなされない性的逸脱行動が強迫的に反復され,日常生活に支障をきたすようになっているものを指しています。 例えば,不特定多数の人との性交渉を繰り返し性感染症や望まない妊娠などの健康被害があるにもかかわらず,セックスがやめられない状態もここに含まれます。このあたりは,過去の報道を参考にするとクリントン元大統領のホワイトハウス内のセックス・スキャンバルやタイガーウッズのセックス・スキャンダルでその名が知られるようになった「セックス依存症」が該当します。また,性被害経験者が被害後に自暴自棄になり不特定多数の異性と性関係を自傷行為的に繰り返す状態や,強迫的な自慰行為もここに含まれると考えられます。このように人間の性的逸脱行動とは多様であり,正常と異常の境界線が非常に曖昧です。 本稿では,その行動が犯罪化するタイプについて主に述べていきたいと思います。 性犯罪事件が報道されるとき,加害者の特異性ばかりが強調されることがあります。いかに性欲が強かったか,そしていかに普段からおかしな人間だったか。そのような人物描写を見て視聴者は性犯罪者を性欲のコントロールできないモンスターのような存在だとみなします。女性であれば,自分の身近にいないことや被害者にはならないことを。男性であれば,自分が加害者にはならないことを。ましてや,被害者には絶対ならないことを確認し,安心します。性犯罪は,このようなサイレントマジョリティといわれる多くの人々の当事者性の欠如から,社会の中で被害側と加害側は分断されその無理解こそがセカンドレイプの温床に62  第3章 性依存症者の地域トリートメント (1) 性犯罪事件報道のバイアス2 性加害者の実態とは

元のページ  ../index.html#32

このブックを見る