行為依存と刑事弁護
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 クレプトマニアという病気が我が国の刑事裁判に初めて登場した時期は不明です。私が知る限り,40年近く前にクレプトマニアに関する鑑定書が裁判所に提出された記録があります。もっとも,クレプトマニアという病気が司法関係者に広く知られるようになったのは,比較的最近のことです。クレプトマニア治療の第一人者である赤城高原ホスピタルの竹村道夫院長が2000年からホスピタルのウェブサイトでクレプトマニアの情報を発信するようになってから,クレプトマニアの認知度が年を追うごとに上がっていったという経過があります。今では,各地の弁護士会のみならず,法務省関係者等も赤城高原ホスピタルを見学に訪れるようになっています。上記の経過からすると,クレプトマニアは司法の場において,「古くて新しい問題」といえるでしょう。 私は,クレプトマニアの患者が万引きを繰り返す事件に,刑事弁護人として10年以上関わってきました。 私の弁護活動の経験上,クレプトマニア,特に,クレプトマニアと摂食障害の併存事例の場合,主に,①機能不全家庭での成育歴(親による暴力や親が子供の進学や進路について強要する等),②性的被虐体験,③発達障害などの基礎疾患の存在のいずれかが影響していることが非常に多いといえます。特に,上記① ②の場合,心理的防衛として犯行時の記憶を想起できないという解離の規制が働くことが少なくありません。 私が弁護を担当した裁判例を分析すると,摂食障害とクレプトマニアの関係について,①盗癖を摂食障害の1症状と捉える見解(日本摂食障害学会監修「摂食障害治療ガイドライン」作成委員会編『摂食障害治療ガイドライン』110  第4章 窃盗症と刑事弁護(1) 環境的要因及び基礎疾患(2) 摂食障害とクレプトマニアの関係2 クレプトマニアの原因

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