行為依存と刑事弁護
37/56

第4章窃盗症と刑事弁護204頁(医学書院,2012)),②クレプトマニアと摂食障害の併存と捉える見解(日本精神神経学会監修,髙橋三郎ら監訳『DSM-5精神疾患の診断・統計マニュアル[第1版第6刷]』470頁(医学書院,2017),以下『DSM-5』という。),③衝動制御の問題が根本にあって,過食嘔吐や万引きへの一種の依存を形成している脳の病理が関与し,摂食障害と万引きの双方を引き起こしていると捉える見解(静岡地裁浜松支部平成24年4月16日判決(平成22年(わ)第344号,第611号窃盗被告事件)における鑑定意見等)に整理することができます。 上記3つの見解は,相互に排斥し合う関係ではなく,要は,事例性の問題です。例えば,過去も現在も食品の万引き行為しか行ったことがない摂食障害患者の場合,盗癖を摂食障害の1症状として説明する①の見解が合理的であり,かつ,後述するようなクレプトマニアの診断基準該当性の(不毛な)議論を回避することができる点で実益もあります。 他方,過去には食品の万引きのみであったものの,その後,日用品等の非食品の万引きもするようになったという事案の場合には,非食品の万引き行為を摂食障害のみで説明することは困難であり,②の見解のように,クレプトマニアと摂食障害の併存と説明する見解や過食嘔吐や万引きへの一種の依存を形成している脳の病理が関与して,摂食障害と万引きの双方を引き起こしていると説明する③の見解が説得的です。 弁護人としては,主治医等の専門家から意見を聴取した上で,事案ごとに理論的かつ説得的な主張をすることが求められます。 クレプトマニア臨床の第一人者である赤城高原ホスピタル院長の竹村道夫医師によると,摂食障害患者の『涸渇恐怖』と『溜め込みマインド』という心理メカニズムこそが窃盗衝動の原動力となるとされます。 すなわち,“摂食障害患者は生理的・心理的に飢餓状態にある。飢餓の関連症状として涸渇恐怖が生じる。食べ物,生活用品,資金,自己に所属する物質や自己の人間的価値や評価がなくなることに対する異常な第1 クレプトマニアとは何か  111(3) 摂食障害とクレプトマニアをつなぐキーワード

元のページ  ../index.html#37

このブックを見る