行為依存と刑事弁護
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第5章窃窃窃窃窃窃窃窃窃窃窃窃窃窃窃窃窃 行為・プロセス依存の1つとしての“万引き”は,アメリカの精神医学会が発行している「DSM-5」にも明記されています。DSM-5とは,精神疾患の分類と,その診断のガイドラインが示された本です。また,我が国の多くの精神科医療機関が使っている「ICD-10」(国際疾病分類)でも同様に扱われています。国際的には常習的で不合理な万引き行為は,早くから“病”として認識されていました。 万引きがやめられないといって当クリニックを訪れる人たちを,私たちはまずこのDSM-5やICD-10に基づいて診断をしていきます。万引きという行為に耽溺し,盗みたいという衝動を抑えることに何度も失敗すること,または物を盗もうとする衝動に抵抗できなくなることが繰り返されます。特に,DSM-5では「クレプトマニア(kleptomania)=窃盗症」に分類されます。ギリシャ語で盗むを意味する「クレプテイン」に熱中している人,という意味です。窃盗症という単語は最近になってメディアでよく見かけるようになったので,聞き覚えのある方もいるでしょう。 万引きは日々,全国で大変な数が行われているので1つ1つがニュースになることはありませんが,著名人や公的な職業にある人がそれをした場合は報道されます。世界的な大会でも活躍していた元マラソン日本代表選手の女性が何度も万引きして逮捕され,執行猶予中に再犯してまた逮捕された……というニュースが放送されたとき,窃盗症という語を使って彼女の「やめられない」状態を説明するメディアをいくつも見ました。しかし,万引きを繰り返すからといって,すぐに窃盗症だと診断されるわけではありません。いくつもの診断基準があり,それらを総合して考えないといけないのです。第1 窃盗症について  177(1) “万引き”依存症という病2 診断基準A問題

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