3) 相澤育郎「フランスにおける刑罰適用裁判官の制度的展開(1)」龍谷法学第48巻大学矯正・保護研究センターでセンター長も務められ,自身も弁護士として裁判実務の一部を担っている村井であるからこそ,学問と実務という単純な側面だけでなく,裁判実務と刑の執行段階における矯正・保護の実務においても学問と実務の隔たりがあること,そしてその架橋が必要であることを述べられています。 本書のテーマである薬物依存やクレプトマニア,性依存などの嗜癖・嗜虐を伴うような行為依存を原因とした刑事事件が実務では問題となっています。これらは従来の行為責任主義では説明しきれない問題と,拘禁刑だけでは何も問題が解決しないのではないかという疑問が生じています。本書を企画された方々も各章を執筆されている方々も日々実務を経験する中で従来の刑事裁判では解決し得ない問題に直面されています。 私に与えられた本稿での役割は,裁判実務を担う方々がなぜ刑罰の内容とその根本となる問題の解決に取り組む必要があるのか,どのように取り組むのか,そもそもなぜ日本では刑罰に着目してこなかったのかを説明し,1つの解決方法としてアメリカの問題解決型裁判所を検討することにあると考えています。たしかに,日本の刑事裁判では犯罪事実に関する証明がまず優先されるべきであって,無罪推定の原則からも事実があったかどうか,その事件を起こしたのが被告人かどうかの証明に力を入れるべきなのは異論がないでしょう。時間をかけて積み上げられた刑事訴訟法の原則は守らなくてはなりません。しかし,同時に刑罰の執行を指揮する検察官は,被告人に対してどのような刑罰を科すことが望ましいのかを考える必要があるのではないでしょうか。刑事訴訟法1条にいう「真実の究明」だけでいいというのであれば,例えばフランスの刑罰適用裁判官のように犯罪事実を証明することと,刑罰の内容を決める裁判は分けて考えるべきでしょう3)。日本はそういう体制は取っておらず,検察官が刑の執行をも指揮することになっています。効果的な刑3号(2016)1303~1354頁。230 第6章 その人にあった「刑罰」を考えるということ
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