行為依存と刑事弁護
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第6章その人にあった「刑罰」を考えるということ罰の運用は検察官の責任であるともいえそうです。一方で,刑罰について一切言及しないかといえばそうではなく,裁判で行われる論告においては「社会的な影響が大きい」といったような言説で罪を重くする時に語られます。その「社会的な影響」というのはどのように証明されているのでしょうか。犯罪事実を証明すること以外にも踏み込むのであれば,なぜ犯罪が起きたのか,どうすれば背後にある社会問題を解決できるのかも一緒に考えてもいいのではないでしょうか。 もちろん,従来の刑事裁判においても,ただ犯罪事実が証明されているだけではなく,違法性や有責性とは別の判断のために本人の鑑定が行われ,さらには情状鑑定なども件数は多いとは言えませんが行われています。しかし,実際に刑が執行される場面ではどういった刑罰がその被告人に有効であり,必要なものなのかが深く議論されているとは言えないのではないでしょうか。特に,判決前調査を行わない日本の刑事裁判は,どういった刑罰がその有罪が確定する被告人に重要であるかを十分に検討しないまま量刑が決められる可能性が高く,また刑の一部執行猶予については,その運用について「再犯の可能性」にまで踏み込むということになっています。その事情や原因を調査せず,ただ前科・前歴があるかないかで判断してしまっていないでしょうか。 以上の問題関心の中で,本稿では,刑事政策を学ばずに刑事裁判の実務を担うことの問題点を概観し,事件として表面化された逸脱行動だけに焦点を当てた「裁判」では,問題解決が困難であることを確認します。そして,それらを考えるヒントとして薬物犯罪者をひたすら刑務所に送っていても背景にある薬物依存による問題が残っている以上,劇的な解決にはならないと判断した実務家の判断から始まったアメリカのドラッグ・コート(薬物専門裁判所)と,そのムーヴメントから派生した問題解決型裁判所を紹介し,いかにして社会問題の解決を目指していくのかを検討する予定です。特に,人の倫理観によって左右されやすい薬物使用についての犯罪は,その行為をどう捉えるかで世界的には大きく取り扱いが異なっています。本稿では,これら薬物自己使用者に関して日本が行ってきた功罪について触れながら,刑事裁判が担う役割と法曹関 はじめに  231

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