本書は,若手でありながら,刑事弁護全般で目覚ましい活動を続けている中原潤一弁護士,神林美樹弁護士が企画した行為依存と刑事弁護に関する共著である。 本書は他に類書に乏しく,今,世に出す意義は大きいと考えている。 とはいえ,私を含め,本書のタイトルに相応しい執筆者の選定となっているのか疑問を感じる読者もいるかもしれない。「治療的アプローチ」のタイトルとの関係では,共著者に精神科医がいないことは甚だ不十分であるとの批判も当然あり得るところである。 この点,本書は,情状弁護の実践や技術向上のために第一線で活躍されている菅原直美弁護士を始め,日々の業務の中で信念をもって情状弁護に熱心に取り組んでいる弁護士が各章の執筆を担当している。 また,本来は入院治療が望ましいが,諸事情によって,入院治療をすることができない患者もおり,そのような患者にとっては,外来治療専門の病院は貴重な存在である。窃盗症のミーティング療法の支援は医師よりはカウンセラー向きだとも指摘されている。このような現状に鑑みると,本書の治療的アプローチに関する章を外来専門の医療機関において行為依存の回復支援を続けてこられた斉藤章佳氏(精神保健福祉士・社会福祉士)に担当して頂いたことは精神科医の代替以上の高い価値がある。 さらに,丸山泰弘立正大学法学部准教授(刑事政策・犯罪学)に参画頂いたことにより,本書は,学術的な意義を有する内容となった。 以上の次第であり,本書は,弁護士を対象とした実務書であると同時に学術的な価値もあり,「理想」と「実践」と「理論」をそれぞれ関連付け,バランス良くまとめられた良書に仕上がったと自負している。 私の専門分野である窃盗症弁護の現状について若干触れておきたい。 現在,窃盗症の治療効果に期待をして再度の執行猶予判決や罰金判決を言い渡し,懲役の実刑を回避する判例群が形成されつつある。これを刊行にあたって iii刊行にあたって
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