ており,長期的な視点で設定することが求められます。更に,民事信託は,自身の大切な財産の管理・処分に関する制度であり,行為によって生じる結果も重大です。 それゆえ,民事信託を行うことの法律上の意味や結果を認識・判断する能力も相対的に高いものが必要となると考えられます。委託者が内容を理解できないまま民事信託が設定され,不測の損害を被るということがないよう,民事信託の設計に関与する専門家には慎重な対応が求められます。⑵ 事理弁識能力の確認 事理弁識能力とは,法律行為の判断能力のことをいいます。社会生活をしていくうえで必要となる種々の法律行為を,単独で行っていくことができるだけの判断能力が備わっているかが問題とされます。現在の法定後見制度では,意思能力と事理弁識能力は同義ではないという立場で条文が作られています(小林昭彦ら『平成11年民法一部改正法等の解説』64頁注7(法曹会,2002年))。 家族に連れられて相談に来た高齢の親が認知症などによって判断能力を欠いていると疑われる場合もあります。特に,家族が主導し高齢の親に民事信託を利用させたいと希望しているケースでは,高齢の親が判断能力を欠いている状態になっていることも十分にあり得ます。委託者の推定相続人から相談を受けた際の問題点については,Q13を参照してください。 Q6で解説したように,民事信託と後見制度は財産管理の面では共通しているため,家族が両制度を選択的に利用しようと考えている場合も多いと思います。しかし,高齢の親が判断能力を欠くことが普通の状態になっている場合には,「事理を弁識する能力を欠く常況にある」として,法定後見を利用するしか選択肢はありません(民法7条)。このような場合には,たとえ,その家族が民事信託の利用を強く希望しても,高齢の親を保護するために法定後見の利用を勧めることが必要です。40第2章 信託契約書等を作成する際に留意すべき事項
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