3 委託者の能力の判断資料4 受託者に対する監督 実務においては,高齢の親に十分な意思能力又は事理弁識能力があるのかどうか判断が難しいケースも多々あります。そのようなケースでは,主治医に面談や診断書の作成を依頼するなどして,高齢の親の意思能力又は事理弁識能力を確認しておくことが望ましい対応です。 事後的に,委託者が信託設定当時に認知症になっていたかどうか争点となった場合に備え,委託者の能力を判断する資料としては,①主治医の意見,②カルテや検査結果,③介護関連の記録,④録画・録音記録,⑤家族や知人等の認識等があると指摘されています(田中和明編『詳解 民事信託――実務家のための留意点をガイドライン』120頁以下[鈴木雄介](2018年,日本加除出版))。 委託者となる高齢の親の意思能力や事理弁識能力に疑義がある場合には,仮に訴訟になったときに,どのようにして委託者の能力を立証すれば良いかということを念頭に置きながら,民事信託を設定する際に資料を収集しておくことが重要です。 委託者と受託者とで信託契約を締結すると,信託の対象となった財産についての管理処分権限は受託者に移ることになります(信託法3条1号2号参照)。委託者が高齢で事理弁識能力が低下していくことが想定され,財産を管理処分することが困難となっていくことが懸念される場合に,予め受託者に財産を信託して受託者に財産の管理処分を委ねることにより,将来における委託者の判断能力の低下に備えることができます。 このように,委託者が有する財産の管理処分を受託者に委ねることは,民事信託が有する大きな特色です。これを動機として民事信託が利用されることが多いのも事実であり,今後もこのような利用方法は増えていくことが予想されます。41Q14
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