不動産鑑定と訴訟実務
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第1章 民事紛争と不動産鑑定2本書は価格及び賃料に関する検討を行うものであるが,鑑定理論ないし経済理論をその直接の対象とするものではなく,個別の法令に登場する「価格」あるいは「賃料」等の文言の解釈を通じて,その法的な意味を検討するものである。その意味で,法概念としての「価格」あるいは「賃料」が本書の対象ということになる。もっともそれらの解釈は,裁判例をみても,国土交通省の定める「不動産鑑定評価基準」及び「不動産鑑定評価基準運用上の留意事項(以下「運用上の留意事項」という。)」(いずれも不動産鑑定士が不動産の鑑定評価を行うに当たっての統一的基準)を通じて行われることが一般であるため,本書では,当該基準を頻繁に引用することになる。不動産鑑定評価基準の沿革昭和38年に「不動産の鑑定評価に関する法律」(法律第152号)が成立(昭和38年7月16日に公布)し,附則18項が評価の基準制定について検討を行うことを求めたこと等を受けて,「不動産の鑑定評価基準」についての調査・審議が建設大臣(当時)から宅地制度審議会に付託(諮問)されることになった。そして昭和39年3月25日に,当該諮問に対して,宅地制度審議会により「不動産の鑑定評価基準の設定に関する答申」として不動産鑑定評価基準が取りまとめられた。その後,昭和44年の改正を経て,平成2年10月26日,現行の不動産鑑定評価基準が答申され,国土事務次官から業界団体である社団法人日本不動産鑑定協会に対して通知された。その内容は,不動産価格の形成に関する理論を科学的に検討し,不動産評価に関する実務の最新の研究成果をも取り入れたものであって,「進歩の集積に応じて今後さらにその充実と改善を期すべきもの」ではあるが,現状においては,「不動産鑑定士等が不動産の鑑定評価を行うに当たって,その拠り所となる実質的で統一的な行為規範」として機能するものである。その後数度改正され,平成26年5月1日付で,国土交通事務次官通知「不動産鑑定評価基準の一部改概観Ⅰ

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