不動産鑑定と訴訟実務
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Ⅱ4第1章 民事紛争と不動産鑑定法概念としての「価格」といっても,「価格」について統一的に規律した法令はない(例えば,不動産の鑑定評価に関する法律1条は,「この法律は,不動産の鑑定評価に関し,不動産鑑定士及び不動産鑑定業について必要な事項を定め,もって土地等の適正な価格の形成に資することを目的とする。」とするのみで,当該「価格」について直接の定義規定を欠く。)。かえって法令ごとに,「価格」,「価額」,「対価」あるいは「時価」という文言が特段の定義規定なく使用されているのが現状であり,それらの意義あるいはそれらがどのような関係にあるのかについて,当該法令自体に手掛かりは乏しい。不動産鑑定評価基準にもその手掛かりは乏しい。同基準は,不動産の鑑定評価において試算される不動産の「価格」について,不動産の経済価値(Value)を,「貨幣額をもって表示したもの」(不動産鑑定評価基準総論第1章第1節)と規定しているものの,それ以外に,上記の各用語との関係を規定した部分はない。ところで,価格は,一般にはこのようないわゆる値段(Price)として表示されている金額そのものを指すことが多い(不動産鑑定評価基準総論第1章第2節参照)が,後述する正常価格(市場価格)はMarket Value(国際評価基準(International Valuation Standards:IVS)20.1)と表記される。つまり,価格とはPriceの意味の場合とValueの意味の場合があり,そのいずれを指しているかは具体的な場面で見ていくほかない。例えば,民法246条にいう工作によって生じた「価格」はValueの意味と見るのが自然である。法概念としての「価格」と「賃料」1 法概念としての「価格」⑴ 概説

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