不動産鑑定と訴訟実務
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Ⅱ 法概念としての「価格」と「賃料」1)例えば,『法律用語辞典(第4版)』(有斐閣,2012年)106頁によれば,「価格」について「一般的・抽象的に物の金銭的価値を表すときに用いられる場合が多い。」とする一方,「価額」について,「具体的に特定した物や財産の金銭的価値を表すときに用いられる場合が多い。」としている。⒜ 「価格」と「価額」ⅰ)不動産の経済価値とその表示額  本書は不動産の「価格」について述べるものであるが,法令上「価格」とは別に「価額」という用語が使用されることがある。もっとも,「価額」は,「価格」と同様,不動産の経済価値(Value)を貨幣額によって具体的に表している金額そのもの(Price)を指す場合もあれば,不動産の経済価値(Value)自体を指す場合もある(なお「価額」という用語自体は,不動産鑑定評価基準上は登場しない。)。ところで,「価格」と「価額」の二つの用語の関係について,個別の法令上明確に区別されているわけではない。「価格」と「価額」については,その定義付けが試みられることがある1)ものの,やはりその境界ははっきりしない。実際にも,二つの用語は相対的なものであり,そもそも「価格」と「価額」の関係が直接問題になる場面は少ない(よって「価格」と「価額」について厳密に定義すること自体にさほど意味はない。)ため,両者をほぼ同様の意味と見ても特段の支障はない。会計上の「時価」の定義企業会計基準第30号「時価の算定に関する会計基準」(企業会計基準委員会〔2019年7月4日〕)は,「時価」について,「算定日において市場参加者間で秩序ある取引が行われると想定した場合の,当該取引における資産の売却によって受け取る価格又は負債の移転のために支払う価格」と定義している。これは会計上の扱いであるものの,「一般に公正妥当と認められる企業会計の慣行」(会社法431条)あるいは「一般に公正妥当と認められる会計処理の基準」(法人税法22条4項)として,法令上も重要な規範になる。5⑵ 価格の周辺概念

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