不動産鑑定と訴訟実務
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第1章 民事紛争と不動産鑑定6ⅱ)正常価格との関係  「価格」や「価額」の解釈をめぐる紛争において不動産鑑定評価基準上の「正常価格」概念が援用されることは多い(☞第2章)。しかし,法令上の「価格」や「価額」の意義について,「正常価格」と必ずしも同一に解釈する必要はない上,個別の法令ごとにその目的も趣旨も異なる以上,適切でもない。当該文言の意味は,個別事案との関連において各条文の解釈を通じて確定されることになる(☞第7章・第8章)。⒝ 「価格」と「対価」ⅰ)有償取引と「対価」  ところで,法令上「対価」という文言が使用される場合がある。「対価」という場合,有償取引における物品,権利,役務等に対する対価を指すのが通常である。ただし,法令上「対価」という文言が使用される場合はそれほど多くはない(売買の場合は「代金」〔民法555条〕,賃貸借の場合は「賃料」〔601条〕,役務の場合は「報酬」〔雇用の場合は623条,請負の場合は632条,委任の場合は648条等〕や「賃金」〔労働契約法2条〕等が用いられている。もっとも,それらは契約における対価性を前提民法における「価格」と「価額」民法あるいは商法・会社法において「価格」や「価額」という文言は多く使用されている。このため同文言の解釈をめぐって紛争になる場面が多く出現する。以下に主な条文を引用する。「価格」という文言は度々登場する(196条2項〔有益費償還請求〕,244条〔付合〕,246条〔加工〕,252条〔共有物の管理〕,258条2項〔共有物分割〕,299条2項〔留置権者による費用償還請求〕,501条3項〔弁済による代位〕,993条2項〔遺贈義務者による費用償還請求〕,1043条2項〔遺留分〕等)。また,「価額」という文言も用いられる(392条1項〔共同抵当における代価の配当〕,422条〔損害賠償による代位〕,424条の4〔代物弁済等に関するもの〕,502条〔一部弁済による代位〕,582条〔買戻権〕,590条2項等〔消費貸借〕,674条1項〔組合員〕,903条〔特別受益〕,905条1項〔相続分の取戻権〕,1002条1項〔負担付遺贈〕,1042条1項〔遺留分〕等)。なお民法269条1項には「時価」という文言が登場する。

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