不動産鑑定と訴訟実務
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Ⅱ 法概念としての「価格」と「賃料」ⅱ)不動産取引と「対価」  不動産に関して「対価」という文言を用いる場合,財産の移転ないし使用関係が生じることを前提に用いられる。したがって,その場合の「対価」は,①譲渡に対する対価の場合(民法424条の2〔詐害行為取消権〕,1045条2項〔遺留分〕,借地借家法19条3項〔土地賃借権の譲渡・転貸〕,24条1項〔建物譲渡特約付借地権〕,地方自治法237条2項〔財産の管理〕等)と,②使用に対する対価(民法88条2項〔法定果実〕,395条2項〔抵当建物使用者〕等)の場合がある。そして,いずれの場合も,その相当性が検討されることになる。⒞ 「価格」と「時価」ⅰ)「時価」の概念  「価格」とは別に,法令上「時価」という用語もしばしば登場する。しかし「時価」と「価格」がいかなる関係に立つのかについても,やはり明確ではない。とりわけ「時価」が公的な評価の場面で使用される場合,例えば,①地価水準の公示に関わる場面(一定の場合〔公共用地の取得に伴う損失補償等〕を除き,私人の法律関係に直ちに直結するような場面ではない。)と,②課税上の評価に関わる場面(☞第7章Ⅳ。私人の法律関係に影響を与える場面である。相続税,固定資産税や不動産取得税等)で問題が生じる。ⅱ)地価水準の公示に関わる場面  公示地価と相続税法・地方税法にいう「時価」は,いずれも「正常価格」を指向するものである。もっとも,次のような違いがある。①目的と評価の対象(標準地の公示価格は,一般の土に,当該対価を個別に表現したものである。)。「対価」という用語は,「価格」と同義で使用される場合もあるが,「価格」と異なり,譲渡に対する対価の意味に限られない(役務に対する対価,使用に対する対価等)。いずれにしても,法令上「対価」という文言が用いられる場合,有償取引における対価的均衡(相当性)について特にクローズアップすることを意図していることが多い(会社法171条〔全部取得条項付種類株式の取得対価〕,361条1項〔職務執行の対価〕,特許法79条の2第2項〔相当の対価を受ける権利〕,消費者契約法4条5項〔物品,権利,役務その他の当該消費者契約の目的となるものの対価〕参照)。7

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