不動産鑑定と訴訟実務
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第1章 民事紛争と不動産鑑定8ⅲ)課税上の評価に関わる場面  課税に係る個別の法令に現れる「時価」の解釈について,当該財産の「客観的な交換価値」をいうとするのが判例(最二小判平成22.7.16集民234号263頁〔相続税法22条〕,最一小判平成15.6.26民集57巻6号723頁〔地方税法341条5号〕等)である。一方で,そこでいう「時価」は,原則として,財産評価基本通達あるいは固定資産評価基準により評価した価額としている。そうなると,「価格」と「時価」の関係というよりはむしろ,「通達等によって評価された時価」と「客観的な交換価値としての時価」の関係が問題となる(☞第7章Ⅳ)。このように「価格」という概念は,「価額」,「対価」あるいは「時価」といったような概念との外延が必ずしも明確とはいえない。そして「価格」それ自体の概念も,(その日常的な語感に反して)極めて不明確でありかつ規範的なものである。①まず「価格」という場合,何についての「価格」を問題にするのかという一見当たり前に見えるようなことについてさえ,常に明確に確定されているとは限らない(☞第2章Ⅲ)。②また「価格」といっても,それがいつの時点の「価格」を指しているのかについて解釈により確定する必要がある(☞第2章Ⅳ)。③さらに「価格」は権利関係の態様に応じてその経済価値も異なるため,その権利関係も解釈により確定する必要がある(☞第2章Ⅱ)。よって「価格」について解釈するということは,いくつかの事項に関する解釈を必要とする規範的な作業といえる。地の取引価格に対して指標を与える一般的規準であり,個別的不動産の評価を直接の目的とするものではない〔令和2年地価公示では,全国26,000地点で実施しているにすぎない。〕のに対し,相続税法や地方税法は,課税の公平性の実現を目指すものであり,課税対象は当然個別的である),②最有効使用との関係(公示地価は,最有効使用を前提とする評価であるのに対し,相続税法や地方税法に基づく評価は現況に基づく評価である。),③価格水準(固定資産税評価額あるいは相続税路線価は,公示地価を基準にして一定のディスカウントにより求められる。)である。⑶ 価格概念の規範性

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