不動産鑑定と訴訟実務
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Ⅱ 法概念としての「価格」と「賃料」2)地価決定のメカニズム等を対象とするものとして西村清彦=三輪芳朗編『日本の株価・地価』(東京大学出版会,1990年),借地借家法の経済分析を行うものとして山崎福寿『土地と住宅市場の経済分析』(東京大学出版会,1999年)等がある。3)ただし,本書でも,資産価格に関する経済理論であるファンダメンタルズ分析は一定程度扱う。4)ところで借地借家法制定当時の民法では,賃貸借の対価につき「借賃」という語を用いていたが,平成16年法律第147号による民法改正の際に,「借賃」という語は「賃料」に置換された。一方,借地借家法の改正はされなかったため,借地借家法では依然「借賃」はそのままとなっている。ちなみに,土地の利用対価のうち地上権の対価については,民法上現在でも「地代」という語が用いられているが(民法266条),本書では,原則として地上権に係る地代を含めて「賃料」又は「地代」という。「賃料」を検討するといっても,「価格」の場合と同様,それは社会生活上多様な意味を含む抽象的な賃料一般を社会学的に考察すること等2)を目的としたものではない3)。あくまで個別具体的な事案における適用条文の文言に登場する法概念としての「賃料」を対象とするものである4)。もっとも,「法概念としての賃料」を対象とするといっても,①それ自体の意義が問題になる法令上の文言である「賃料」と,②法令上の「価格」ないし「時価」等の解釈(算定)の際に用いられる収益性を示す「賃料」の二つの場面がある。賃料それ自体を扱うといっても,名義上賃料(家賃あるいは地代)といわれているものが,賃貸借による対価(民法601条参照)といえるかどうかは必ずしも明確ではない。賃貸借の周辺の法形式(例えば使用貸借等)との間の法性決定の問題として,まず対象となっている対価が賃料としての性質を有するものかどうかを解釈により確定していく必要がある(☞第3章)。ところで,賃料に関する紛争の多くは,賃料の事後的変更に関する紛争である(地代の場合は借地借家法11条,家賃の場合は同法32条である。)。変更の要否の検討が必要な賃料とは,既に契約関係にある当事者間における賃料(不動産鑑定評価基準上は「継続賃料」という。)であるが,これは契約関係に92 法概念としての「賃料」⑴ はじめに⑵ 賃料それ自体の意義が問題となる場面

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