はしがきiiことになる。不動産鑑定は,利用当事者の利益を最大化する不可欠のツールであると同時に,ひいては,それが不動産取引の適正化を促進する社会インフラ,そして裁判の適正化に貢献する司法インフラである。このように一般社会において重要な役割を担う不動産鑑定は,もっと利用されてよいと思う。しかし,一般市民はもとより弁護士や税理士の間でさえ,不動産鑑定そのものに関する理解が十分浸透しているとはいえない状況である。不動産取引の適正化の一翼を担う弁護士,税理士そして不動産鑑定士が,相互に交流を深めることを通じて,「不動産を扱う場合には不動産鑑定を利用する」という慣行が一般社会に形成されることを願うばかりである。そのような不動産鑑定の社会的意義を再認識するべく,本書は企画された。切り口としては,不動産鑑定の価値が正面から問われる訴訟実務を設定した。不動産鑑定が,民事裁判のいかなる場面でどのように活用され,裁判所によっていかに扱われているのかについて,判例を素材にその分析を行う。その意味で,本書は純粋な経済理論としての鑑定理論を直接の対象とするものではない。あくまで,法令上の文言の規範的解釈において援用される鑑定理論が対象である。これは,鑑定評価を行う上での条件設定が重要であることを意味する。結果としての鑑定評価に大きな乖離があるとすれば,それはそれぞれの条件設定に大きな乖離があることに起因するものと思われる。なお,本書は現在の訴訟実務を説明するに当たって私見を極力排除したつもりであるが,なお存在する私見とみられる部分についても,筆者が所属する組織や団体等の見解を代弁するものではないことはあらかじめ注意喚起しておきたい。さて本書の具体的な構成としては,賃料から価格へ,そして総論から各論へ展開する体系的な叙述方式としながらも,一方で単調にならぬように実際の事案等から作成した設例を用いて具体的にイメージできるように心掛けた。本書は,読み進めていくうちに叙述の具体度が上がるようになっているが,
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