(試し読み)遺言執行者の職務と遺言執行の要否
33/40

⑸ 特定財産承継遺言における遺言執行者の職務① 従来の見解(判例)② 改正法による規定1 特定財産承継遺言(「相続させる」旨の遺言)の執行 185ア 「相続させる」旨の遺言の執行 「相続させる」旨の遺言によって承継された権利については,登記なくして第三者に対抗することができるとされていたことから,遺言執行者が受益相続人のために速やかに対抗要件を具備する必要性もさほど高くなかった(平成14年判例参照)。また,「相続させる」旨の遺言については遺言執行の余地はないと解されていた(平成7年判例参照)。イ 遺産分割方法の指定としての「相続させる」旨の遺言の執行 これに対し,遺産分割方法の指定として特定の遺産を特定の相続人に「相続させる」旨の遺言については,第三者に対する関係では,遺言に沿う権利変動につき,対抗要件を具備することが必要であるから,対抗要件を具備するまでは遺言によって意図された権利関係の承継が完全な効力が生じているといえないとし,「相続と対抗力」の観点から,遺言執行の余地はあるといえるとする見解もあり(蕪山・515頁参照),また,遺言執行者は,「相続させる」旨の遺言であっても,単純に執行の余地がないと即断することは許されず,その職務が顕在化しているか否かの観点から,事案ごとに検討する必要があるとされていた。 特定財産承継遺言がされた場合について,遺言執行者は,その遺言によって財産を承継する受益相続人のために対抗要件を具備する権限を有することを明確化し,特定財産承継遺言があったときは,遺言執行者は,当該共同相続人が民法899条の2第1項に規定する対抗要件を備えるために必要な行為をすることができるとした(民1014条2項)。 上記規定によれば,対抗要件が具備されなければ遺言による権利変動を第三者に対抗し得ないことになるから,それが済むまでは遺言内容は実現されないということになる。したがって,特定財産承

元のページ  ../index.html#33

このブックを見る