不判例
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解 説4住んでいること、駅から近い物件であること、1200万円の予算内であったことから、早々に購入の意思を伝えたことが認められる。加えて、本件マンションを含む建物全体は、昭和53年6月15日に新築され、本件売買契約当時は既に築37年の中古物件であって、早晩雨漏りや漏水等の発生が予想され得たものである』、『これらの事情に照らすと、本件雨漏り歴がない又は本件状態にないというXの動機がYに対して表示され、かつ、本件売買契約の内容となっていたとは認められない』として、錯誤無効を来す動機の錯誤を否定し、錯誤無効の主張は認められなかった。契約を締結するかどうかを判断するための情報は、本来当事者が自らの責任をもって収集しなければならない。これを説明・告知の観点からみれば、契約成立前に、交渉の相手方に対して説明・告知をするべき義務(説明義務)が、当然に認められるわけではないということになる。しかし、契約締結に必要な情報の所在が、当事者の一方に偏っているという状況が生じることも多い。そこで、契約交渉の状況や当事者の置かれた立場からみて、一方の当事者がその相手方に対して、情報を提供することが衡平に適する場合には、交渉の相手方に対する説明義務が課される場合がある。『不動産売買における売主は、その売買の当時、購入希望者に重大な不利益をもたらすおそれがあり、その契約締結の可否の判断に影響を及ぼすことが予想される事項を認識していた場合には、売主は、売買契約に付随する信義則上の義務として、購入希望者に対して当該事項について説明すべき義務がある』とされている(東京地判平成28. 3. 11-2016WLJPCA03118008)。2 錯 誤錯誤とは、①表示行為から推測される意思(表示上の効果意思)と表意者の真実の意思に齟齬(くい違い)があり、かつ、②表意者がその齟齬に気づいていない、という表意者の主観的な状態を示す概念である。従前、民法には、「意思表示は、法律行為の要素に錯誤があったときは、無効とする」と定められており(平成29年民法(債権法)改正前の95条本文)、要素の錯誤がある契約は無効とされていた。要素とは契約における重要部分をいう。1 説明義務1節 売主の説明義務

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