不判例
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5本件売買契約は、中古マンションの売主Yが、平成27年6月29日に前所有者Eからこれを購入し、同年8月9日に買主Xに転売し、XがYから購入して2か月後に洋室天井から雨漏りが発生した事案である。Yは、自らが購入したときには、修理済みとはいえ過去に雨漏りがあったことを書面にて伝えられていながら、Xに転売するについては、「現在まで雨漏りを発見していない。」という項目に丸印を付けて書面を交付し、売却している。このような状況のもとで、本件では、Xは、説明義務違反による損害賠償の請求を行い、また、錯誤による無効を主張した。判決では、説明義務について、事実と異なる説明をし、かつ、雨漏り歴を知りながら故意に隠したことを、信義誠実の原則に著しく反するとして、売主の責任を肯定した。錯誤については、動機の錯誤が問題とされているところ、動機の錯誤とは、意思決定をするに至るまでの原因・動機・目的の段階で誤解があった場合の錯誤である。動機の錯誤の場合は、表示の錯誤(意思決定がなされてからそれを表示するまでになされた誤解・誤判断)とは異なり、動機が表示されるなどして法律行為の内容をなしている場合にはじめて、契約が無効になる(最判昭和29. 11. 26民集8巻11号2087頁)。判決では、動機(雨漏りがないこと)が売買契約の内容になっておらず、表示されてもいないとして、錯誤無効となることが否定された。4 平成29年民法(債権法)改正における錯誤の取扱い錯誤に関しては、平成29年改正後の現行民法95条では、仕組みが大きく見直された。見直しのポイントは、⑴条文上表示錯誤と動機錯誤の要件を分けて記載したこと、⑵相手方重過失と共通錯誤の場合は、表意者重過失でも取消しができることを明記したこと、⑶錯誤の効果を、無効(錯誤無効)から取消しが可能(錯誤取消し)に改めたことの3つである。なお、本件は改正前の民法が適用となっているので錯誤無効の主張がなされているが、改正の前後で要件の実質的な変更はないと理解されている。したがって、本件と同様の状況が改正後の民法のもとで生じたとしても、錯誤取消しが否定されるものと考えられる。11売主の雨漏り歴の説明義務3 本件の検討

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