事例でわかる 任意後見の実務
27/38

(3) 金融機関とのやり取り 任意後見契約発効後は、任意後見人が財産管理を行うことになります。そのため金融機関との迅速かつ円滑な取引が任務遂行の要になります。しかし、金融機関の窓口担当者は、成年後見制度を熟知していることが少ないのが現状です。預貯金の名義の書き方さえも各金融機関で対応が異なっているので、事前に問合せをして十分に確認した上で窓口に出向く必要があります。 また、有価証券の配当等がある場合も、本人では配当金の受領が困難な場合が多いでしょう。そのため株券発行会社若しくは株式名簿管理人に問い合わせて、配当金や議決権行使についての書面を任意後見人に発送してもらう手続が必要です。 代理権目録は、代理権目録だけで当事者が特定できる必要があるので、当事者の氏名を記載します。代理権目録に記載する事項は、本人と受任者で決めますが、法律行為でなければなりません。ただし委任事項が少なければ、委任事項以外にも代理の必要性が生じた際に、法定後見への移行の確率が高くなってしまいます。このリスクを司法書士などの専門家がアドバイスした上で、委任内容を考えて代理権目録を作成する必要があります。 また、人それぞれの人生の特色のある具体的な内容を定めることで、判断能力が低下した後も本人らしい生活を営むことができるようにしたいものです。配偶者への毎月の生活費の額や孫へ扶養として学費を出してあげたいなど、結果からみると、贈与や相続対策になっているものもあるかもしれません。 判断能力のしっかりしている間に、この代理権目録をしっかり作り込んでおきます。そして、本人の判断能力が衰えたら、代理権目録の内容どおりに任意後見人に代理行使してもらう、これこそが本人の自己決定権の尊重そのものでしょう。 この代理権目録及び後に説明するライフプランに、いかに本人の生きざまと将来の希望を表現しきることができるのかが、司法書士などの専門家の腕の見せ所といえるでしょう。 代理権目録以外にも、受任者が複数の場合の「共同行使の定めの目録」や第三者の同意が必要な場合の「同意を要する旨の特約目録」などがあります。 (事例編第3章1を参照ください。)72  任意後見制度の概要と流れ

元のページ  ../index.html#27

このブックを見る