206 第1章 事件申立て及び保全処分の審理 「拓斗くーん。ねぇ,決めた? お母さんいいって言ってた?」 「うん。でもまだいつから入るかは決めてないんだ」 「そうなの?早く一緒にやろうよ。来週は練習試合があるんだぜ」 「そうなんだ……」 拓斗は,もやもやとした気持ちのまま言葉を濁した。 転校して同じクラスの隣の席になった渡邊悟は,活発でクラスのリーダー的な存在だ。転校生の拓斗に何かと声をかけ,誘ってくれる。 帰る方向が一緒のため,下校後,何度か一緒に帰る中で,拓斗が週末は習い事もなく家で過ごしていると知った悟は,クラスの男子の半数が入っている地域のサッカーチームに入団するよう誘っていた。悟の父がコーチをしていて,悟の兄達も入団しているチームで,悟はサッカーチームでも人気者だった。 拓斗は,悟の屈託のない好意を嬉しく思いながらも,「お母さんに聞いてみるよ」と言って回答を先延ばしにしていたのだ。 転校して1か月以上たち,隣の席になった悟のおかげもあって新しい友達もたくさんでき,学校にはなじむことができた。 いきなり転校することになり,住み慣れた家から離れ,友達にも会えず,得意だった水泳にも行けなくなり,何より一緒に遊んだりご飯を作ったり,いろんなことを話していたパパとも会えなくなってしまった。 最初はこれからどうなってしまうのか分からず,心配でたまらなかったが,学校に慣れ,おばあちゃんの家での毎日が普通になってきた。 サッカーチームに入りたいし,ママもいいと言ってくれている。おじいちゃん,おばあちゃんも喜んで賛成してくれていた。 しかし,拓斗は「お母さんがもう少し待ってって言ってるんだ」と答えるのだった。 小学2年生の拓斗には,自分がどうして一つ返事で入団に踏み切れないのか,自分の気持ちや行動を理解できなかった。点景 拓斗の逡巡
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