Column 接続プロバイダに対する損害賠償請求で請求できる損害は,条文上「開示の請求に応じないことにより当該開示の請求をした者に生じた損害」とされています(プロ責法6Ⅳ)。しかし,これは,どのような損害なのでしょう。そして,被侵害法益は何でしょうか。 総務省逐条解説(第3版,129頁)では,開示が遅れたことによる精神的苦痛と,発信者が行方不明・無資力になった場合が例示されています。前者は理解できるものの,後者は,発信者に対し請求するはずの慰謝料を接続プロバイダに請求できるという趣旨なのでしょうか。 この問題に関連して,中澤佑一弁護士が原告代理人を務めた東京地方裁判所平成27年7月28日判決(公刊物未登載,平成26年ワ第29697号)は,被侵害法益につき,「プロバイダ責任制限法4条1項に基づく発信者情報の開示請求権を行使して本件投稿記事の発信者を特定した上で,当該発信者に対して損害賠償その他の権利を行使することを合理的に期待する利益」としています(条文は旧法)。 そのうえで,「その額は,発信者に対する損害賠償請求が実現された場合に想定される賠償額を主要な考慮要素として総合的に勘案して定めるのが相当である」と判断しています。 この判決を参考にすると,「開示の請求に応じないことにより当該開示の請求をした者に生じた損害」は,発信者に対して請求できるはずだった慰謝料相当額となり,これを接続プロバイダに請求できる,という結論になるのではと考えます。第11章 投稿者への請求206接続プロバイダへの慰謝料請求11
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