158の導入は,一考に値することは間違いありません。 もっとも,会社の人件費等には限りがありますので,この対応が最善ということでもありません。例えば,人件費等が膨らみ,会社経営に支障が生じることになれば元も子もありません。また,一度,労働条件の一部になると,後に変更する場合には,労働条件の不利益変更の問題(労契法8条ないし10条)が生じることになります。この不利益変更については,上記のとおり,これまでの裁判例実務では,変更が有効と認められるハードルは高く,このために手間や費用(説明会の実施や経過措置,代償措置・不利益緩和措置等)も別途必要になります。 したがって,会社としては,将来を見据えて,短時間・有期雇用労働者の待遇については慎重に検討する必要があります。 なお,前掲水町勇一郎『「同一労働同一賃金」のすべて』(有斐閣,2019)156-157頁では,この有利変更となる場合,経営を圧迫するという問題に関して,「企業としては,労働生産性向上,内部留保の利用,価格の引き上げ等の方法を複合的にとりながら,賃金原資を増やし,労働者の全体的な待遇改善につなげていくことが求められている」との記載があります。筆者の私見としては,この方向で検討することは理想論的には望ましいとは思われるものの,賃金総原資の担保のために,内部留保を切り崩すこと等まで必要かについてはやや疑問があります。内部留保の潤沢さが,昨今の有事の事態を救う資金源となるものであり,内部留保を切り崩し,そこから法的にハードルの高い賃金総原資を工面することが必ずしも適切とは考えません。6 まとめ 上記の方向性については,いずれか一つを選択し,検討していくというものでもありません。最終的に,方向性③を採るとしても,私見として紹介したように,先立って方向性④の検討をしておいたほうが良いと考えます。このように,どれか一つの方向で決めるのではなく,複数の方向性を検討し,試行錯誤し,最善を目指す姿勢が望ましいように思います。
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