同一賃金
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I 近年,正社員と非正規社員との待遇の不均衡を問題視する動きが,社会的にも法的にも活発です。法的な面としては,2012(平成24)年に労契法20条が創設され,無期雇用労働者と有期雇用労働者との間の労働条件の相違が不合理なものであってはならないと規定され,2018(平成30)年には,パート・有期法の均衡待遇規定(同法8条)において,短時間・有期雇用労働者といった非正規社員と正社員との待遇の相違が不合理なものであってはならない旨が制定されるに及びました。もっとも,問題とされているのは,あくまで「不合理」な待遇の相違であって,相違があれば,即,違法になるわけではありません。そこで,実務においては,何をもって「不合理」と解するのかこそが大問題であり,本書も,待遇の相違が存するという事実を前提として,それが「不合理」と解されないような合理的な説明を行うという実務的要請を基に著作したものです。 本来,労働条件というものは,使用者と労働者との交渉によって自主的に決定されるものであり,それに法律の名の下に国家が介入するものではありません。しかし,我が国の労働環境では,長期雇用を前提に,当該企業への長期勤続・キャリアアップを想定して採用される正社員と,そうではなく,短期的に契約で具体的に規定された内容の仕事のみを遂行することを想定して採用される非正規社員の区別は,当人の意思,意欲及び能力によるというよりは,往々にして,新卒一括採用時という僅かな期間における就職活動(もっといえば,その就職活動期間における諸企業の人員採用意欲とその前提となる経済状況)によるところが大きいのが現実です。換言すれば,たまたま新卒の際に,いわゆる就職氷河期にあたり正社員として就職することがかなわなかった者としては,その意欲,能力に見合ったキャリアアップを行い,適正な労働条件を獲得する機会が乏しいことが,正社員と非正規社員との「不合理な」待遇の不均衡が問題視される根本的な所以であると思われます。そうした我が国の労働環境は,昭和48年12月12日の三菱樹脂事件最高裁は し が き

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