同一賃金
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II判決以来,労働者を採用するまでは使用者に広汎な採用の自由が認められる一方,一旦,正社員(無期雇用労働者)を採用してしまったら,解雇することは極めて困難であるという我が国の解雇法制(主には労契法16条)によっているものです(使用者としては,余程のことがないかぎり,一旦雇用した正社員を解雇できない以上,意欲と能力があると思われる非正規社員に出会っても,そうそう簡単には既存の正社員と入れ替えて雇用することができません。)。それだけに,そうした労働環境は容易には変更されることは予測しがたいし,それを原因とする正社員と非正規社員との格差の問題は,上述の法制化によっても,社会的実態としては,そう簡単になくなることはないでしょう。 上記のような社会的実態の中,上述の法制化の後において,正社員と非正規社員の労働条件の相違を広汎に不合理とした裁判例も存する一方で(令和2年10月15日の日本郵便最高裁判決),主要な相違につき不合理ではないとした裁判例も少なくなく(令和2年10月13日の大阪医科薬科大学事件,メトロコマース事件等),上記の相違についての「不合理」か否かの判断は,事案によって揺れ動いています。しかも,裁判例には,下級審では,相違を不合理としていたところ,上級審(最高裁)において,「不合理ではない」と判断が変更されたものも多く(前掲大阪医科薬科大学事件,メトロコマース事件,平成30年6月1日の長澤運輸事件等),これは,問題となった正社員と非正規社員の労働条件の相違について「不合理でない」ことの説明の方法,理論構成いかんによって,司法判断が入れ替わる余地が大きいことを如実に表しています。 そうした意味で,本書は,当分の間,不回避に存在し,しかも,使用者側の「不合理でない」ことの説明方法,理論構成によって判断が入れ替わる余地が多いところである,正社員と非正規社員の格差(その当否の問題はここでは措きます。)につき,いかに使用者側が対応すべきか,という見地より著作したものです。もとより,説明の方法,理論構成ということが主要な眼目であるので,中立的な観点から「不合理」か否かを判断することに比して,

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