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411あとがき 私が所有者不明土地問題を知ったのは,10年近く前のことです。福井の実家に帰省した際に,母から「村には誰のもんかわからんくなった山がけっこうあるんやぞ」と教えられたことがきっかけでした。この話を聞いた私は,大変だとは思いつつも,少子高齢化や不在地主などの問題の一つという程度の印象しか持ちませんでした。しかし,その後,弁護士として再生可能エネルギー分野の案件に携わることが増え,全国に相続登記がされず,相続人が多数存在する土地,相続人が海外に移住し,連絡が取れない土地などが多数あることを知りました。そして,問題を知れば知るほど,この問題が目に見えない「権利」を扱う問題であり,弁護士をはじめ法律実務家が果たす役割が大きいことに気づかされました。以後,吉原祥子さんのレポートをはじめ,この問題に関する文献を読み漁り,シンポジウムや学会を聴講しながら,実務家として,この問題にどう取り組むべきかを自問自答し続けてきました。その中で,「所有者不明土地問題はお金にならない」というパワーワードは,この悩みを更に深いものにしました。 今回の改正が問題解決に向けた大きな転換点になることは間違いありません。立法に携わった関係者の功績は次の100年に語り継がれるべきものです。もっとも,法律が定めるのは最低限の内容です。財政悪化が懸案事項の国家において,相続土地国庫帰属制度がフル機能する事態は好ましくありません。同様に,義務だから仕方なく登記するという法意識が我が国に定着することも最適解ではありません。より望ましいのは,次世代のために今ある土地や財産を円滑に承継したいという想いから,適時適切な財産承継とその登記が自発的になされる社会です。問題の根源は,相続という財産承継制度が十分に機能していないことにあります。しかし,本来,次世代への財産承継のあり方を決定するのは,個々人であり,国家ではありません。そうだとすれば,法律実務家である私たちには,改正法の適切な運用と同等に個々人の次世代への想いを実現する財産承継のベストプラクティスを模索していく責務があると感じています。本書を新たな出発点あとがき

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