第1編 家事事件手続法が家事実務にもたらしたもの2序 本書の編成と各章の紹介第1章 家事事件手続法の立法による調停の基本構造への波及 調停の基本構造というと,従来,調停合意斡旋説と調停裁判説の両説の対立があるように紹介されてきたが,多分に「調停観」とでもいうべき理念的対立であったように思われる。筆者が本章で取り上げるのは,そのような理念的な議論ではなく,家事事件手続法の立法に基づく家事調停実務の変化によって,調停の基本構造の理解にも変動が生じているのではないかと指摘するものである。 そして,そのような理解に基づくと,どのように調停を運営すべきか,それがどのような思考の広がりを持つか,どのような方策や実践が考えられるか,どのような点に留意しなければならないかについて検討し,併せて,我が国における調停の課題や将来に向けての提言も試みている。第2章 家庭裁判所調査官の調査報告書の開示と調停手続 家事事件手続法の制定に当たり,家事審判法からの見直しの最大の要点とされたのは,当事者等の手続保障であり,不意打ち防止を目的とする別表第2審判事件の特則規定(家事事件手続法66条~72条)が設けられたのであるが,これを機に,家事実務では,別表第2審判手続で通常前置される調停手続に加え,一般調停においても,それまで原則として非開示とされていた家裁調査官による調査報告書を開示する方向に舵を切ることになった。 本章を執筆していただいた水野有子裁判官は,人事訴訟を含めた家事事件全般の経験が豊富であるだけでなく,パースペクティブな視点からの思考にも富んだ裁判官である。本章で水野裁判官は,人事訴訟法制定前後からの調査報告書に関する議論や実務を踏まえて家事事件手続法の施行に至ったという一連の経緯を振り返った上で,調査官調査と調査報告書の在り方について,家事実務では根本的な哲学の変更・修正がされたと指摘するとともに,これを職権探知主義,当事者の手続保障という理論面から捉え直すことに挑んだ。家裁調査官のみならず,調停委員会を構成する裁判官及び調停委員に対してもエールを送る,意欲的な論稿となっている。
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