裁実理
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6そのフォローアップ序 本書の編成と各章の紹介(考慮要素)の重み付け,総合考慮の在り方,今後の課題等について,従来の視点を更に進めて考察された意欲的な論稿であり,実務における困難な判断に手掛かりを与えるものとして注目される。第8章  養育費,婚姻費用の算定に関する標準算定方式・算定表の改定と 令和元年11月,東京家裁及び大阪家裁の裁判官4人を研究員とする司法研究報告書「養育費,婚姻費用の算定に関する実証的研究」が発表された(改定標準算定方式・算定表)。周知のように,平成15年に発表された標準算定方式・算定表は,簡易迅速に,合理的な養育費,婚姻費用を算定するアイテムとして瞬く間に家事実務に定着し,「最も成功した家事実務」とも評されていた。今回公表された改定標準算定方式・算定表は,従来の標準算定方式・算定表を改定したものである。 改定標準算定方式・算定表は,発表後,事件を担当する裁判官や家事調停委員にも直ちに受け入れられ,従来の標準算定方式・算定表からの移行も円滑であったと聞いている。とは言うものの,前記司法研究では,細かな実務運用にまでは触れられていなかった点もあり,実務としては,そのフォローアップを継続的に図ることが必要となった。 清水克久裁判官は,改定標準算定方式・算定表の発表段階から現在まで,東京家裁のフォローアップ検討チームの中心となって活躍してきた裁判官であって,様々な問題について,大変分かりやすく解説してくれている。第9章 遺産分割事件の審理対象に関する再考 遺産分割調停事件における段階的進行モデルが,当事者の主張が多岐にわたり進行も交錯しがちな遺産分割調停事件において,調停の進行に関する規律を予め示すものとして,遺産分割調停の審理の合理化・迅速化に大きな役割を果たしてきたことは,すでに多くの論者から指摘されているところである。 本稿は,東京家裁立川支部において遺産分割事件を担当する西澤瑞人裁判官が,段階的進行モデルが前提とする理解を確認した上で,実務にも大きな影響を与えた預貯金の分割対象に関する平成28年の最高裁決定,死後

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