7序 本書の編成と各章の紹介引出しなど分割前に処分された遺産の分割対象性に関する改正相続法の規律と段階的進行モデルが前提とする審理対象についての理解との関係について「再考」することを試みた論稿である。新進気鋭の西澤裁判官の分析・検討過程が的確に表現されたものであることに加え,立法的課題についても論及された意欲的な論稿である。第10章 特別寄与料に関する実務上の諸問題 平成30年7月6日に成立した改正相続法は,相続法の分野において多岐にわたる改正事項を含むものであったが,その中でも,相続人以外の者の貢献を考慮するための方策として新設された特別の寄与の制度に注目が集まっている。新設の特別の寄与制度自体の運用面での検討が必要なのはもちろんのこと,従来の寄与分制度との関係はどのようになるのか,従来から実務で用いられていた履行補助者論は新法下では否定されるのかなど,多くの検討すべき課題がある。 東京家裁家事第5部(遺産分割部)で多くの遺産分割事件を専門的に担当している若手裁判官である伊藤健太郎裁判官が,立法経緯やこれまでの実務運用との関係にまで遡り,これらの点を考察してくれている。第11章 離婚訴訟の計画的・迅速な審理に向けた一考察 人事訴訟の審理の長期化傾向が指摘されて久しい。本稿は,全国の人事訴訟事件の新受件数の1割を優に超える事件を担当している東京家裁家事6部(人事訴訟専門部)の若手裁判官である橋詰英輔裁判官が,自ら,日々試行錯誤しながら取り組んでいるプラクティスをまとめたものである。 その主な内容は,離婚自体が争われている事件での争点整理における計画的審理の取組,離婚訴訟で特に審理が長期化する主要因である財産分与が問題となる事案における争点整理段階の計画的審理であり,計画的で迅速な審理を図るためのノウハウやスキルを含めた「橋詰コート」がリアルに紹介されている。離婚訴訟の審理に当たり,裁判官が自らの考え方を当事者に説明し,当事者の理解を得ながら審理を進めていくことの必要性を感じさせてくれる力強い論稿である。
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