裁実理
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第3編 家事実務の新たな取組と提言9序 本書の編成と各章の紹介第15章 新型コロナ禍の下で考える家事調停 令和2年中の新型コロナウイルスの感染拡大は,家裁実務,取り分け調停手続に対して,これまでに例がないほどの影響を及ぼした。当時,横浜家裁の所長であった廣谷章雄裁判官が,緊急事態宣言中及びその前後において,横浜家裁で行われていた様々な取組について,調停手続を中心として,経済事案,面会交流事案,一般調停事案に分けて,その取組やそれを支える思想を,レジリエンス(逆境や困難などから立ち直る力)というキー返還事件における付調停の運用のメリット,計画的な審理をしながらも臨機応変の対応が必要となることなどについて,実情を詳細に紹介してくれている。また,返還事由及び返還拒否事由についての裁判例の判断に関しても分析・検討がされるとともに,令和元年に改正された強制執行に関する規定への対応についても解説されている。 この分野の実務の第一線に立つ村井裁判官が,施行段階における制度設計から現在の実務の運用についてまで,様々な事項を精力的に取り上げた貴重な論稿である。第14章 家事抗告審の審理の実情 家事事件手続法の施行から今日に至るまでの間,家裁(一審)における家事事件の審理手続(運用)や判断基準等については,相応の論文が発表されてきたものの,家事抗告審については,これまでまとまって紹介されることが少なかったように思われる。 家事事件手続法施行段階からの豊富な家事実務経験を有し,かつ,理論的な分析・検討にも秀でた松谷佳樹裁判官に,特にお願いして,抗告審における家事事件審理の実際,手続上問題となる点,家事抗告における調査官調査,家事抗告審における調停等について論じてもらった。一般的な解説に留まらず,家事抗告審を担当しての雑感なども紹介されており,大変興味深い論稿となっている。

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