裁実理
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ワードも援用しつつ,いきいきと語った。第16章  調停手続における通信手段の活用の実情とファストトラック審理 家事事件手続法は,国民に家事手続を利用しやすくするための制度の創設・見直しとして,すでに民事訴訟手続で実施されていた電話会議システム・テレビ会議システムによる手続を家事事件にも導入した(家事事件手続法54条)。しかし,このような通信手段を家事事件,取り分け調停手続で利用することは,様々な隘路もあり,これまで活発とまでは言えない状況にあったように思われる。 本稿は,コロナ禍を経た家事実務において,家事調停手続における通信機器の活用についてどのような検討がされているのかについて,東京家裁でその検討にも関与していた千葉和則裁判官によって紹介がされている。家事事件における通信機器の活用の視点は,現在,裁判所において導入が検討されている裁判手続のIT化とのつながりも含め,様々な広がりを持つ。調停手続におけるファストトラック構想,家事事件における手続選別等,新たな方向性も提示した,未来志向の論稿といえよう。第17章 身分関係の変動を伴う調停成立時における本人出頭原則について 家事調停実務では,従来,調停期日において離婚又は離縁の調停を成立させるためには,手続代理人が選任されている事案でも,必ず本人が期日に出頭することが必要であるとして運用されてきた。そして,その理論上の根拠として民法学における身分行為理論が,手続法上の根拠としては調停手続における本人出頭原則が挙げられていた。 この運用は,長く家事調停実務に定着し,誰もがその相当性を疑うことすらしなかったようにも思われるが,村松多香子裁判官は,正面からこの運用の当否の検討に挑んだ。本稿で村松裁判官は,身分行為に関する民法理論に遡ってこの問題を検討した上で,本人出頭の原則的な扱いを堅持しながらも,例外的に許容できる場合があるのではないかと,鋭く問題提起をしている。これまでの家事実務に再検討を迫る見解として注目される。の構想序 本書の編成と各章の紹介10

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