「家庭裁判所物語」清永聡(日本評論社,2018年) 家庭裁判所創立70周年を迎えた平成31年に合わせて刊行されたノンフィクション。この「物語」は,家族と共に満州から引き揚げてきた宇田川潤四郎が,上野駅に降り立ったところから始まる。宇田川潤四郎は,日本の家庭裁判所の創設に貢献し,後に「家庭裁判所の父」と呼ばれる人物である。戦後の混乱期の最中で,多くの人々の熱意と創造性によって家庭裁判所が誕生し,今日を迎えていることが,著者の丹念で圧倒的な取材によって明らかにされている。裁判所内部の者にも知られていなかった家庭裁判所草創期の秘話が多く紹介されるとともに,最終章では,東日本大震災直後,仙台家裁で当時の秋武憲一所長や家裁調査官らがどのように考え,行動したかという興味深いエピソードが語られている。 著者は,NHKの報道局社会部記者,司法クラブキャップなどを経て,2016年からNHK解説委員。ライブラリー「家庭裁判所物語」12ライブラリー
元のページ ../index.html#36