裁実理
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1はしがき 「離婚届見直しへ 養育費不払い防止で上川法務大臣」 この本に掲載されている論文のゲラ校正分を私がほぼ読み終えたとき,私の目に飛び込んできたニュースである。令和3年4月16日,上川法務大臣は,親が離婚した後の養育費の不払いをなくすため,離婚届を見直して養育費の分担について公正証書で取り決めているかどうかを尋ねる項目を設ける方針を明らかにしたのである。会見のなかで上川法務大臣は,「今回の見直しで,離婚を考えている父母が必要な情報を取得し,子どもの成長について考えるきっかけのひとつになることを期待している」と述べたと報じられている。 全国の自治体のなかには,こうした動きに呼応して,養育費の取決めに関する費用(公正証書作成費用,家裁の家事調停・審判のための費用等)を助成する制度の創設・拡充に動き始めた所もあるようである。 離婚届の記載項目という形式面のわずかな修正のように見えて,実は,家事調停・審判の実務にも影響を及ぼす改正であるように考えられる。 離婚届の見直しは,ほんの一例に過ぎない。家事の分野では,法律自体の改正も頻繁に行われているし,家裁でも日々,様々な運用改善が試みられている。家事事件手続法施行後のこのような家裁の取組については,随時,法律雑誌等に掲載されて紹介されてきたものの,残念ながら,1冊のまとまった書籍として刊行されるものは存在しなかった。 そこで,家事事件手続法施行8年(法成立から10年)を契機として,家事事件をめぐる様々な動きを,相互に脈絡はないかも知れないし,網羅的でもないが,家事事件を担当する裁判官の視点から論じてみるのも,今後の家事実務のために必要なことではないかと考え,本書を構想した。本書を執筆していただいた裁判官の皆さんには,単なる実務の紹介に留まらず,これまでの家事実務に対する批判的な観点,問題意識等も率直に語ってもらうこと,将来の家事実務を考える上で必要な理論的問題,立法論に及ぶはしがき

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