裁実理
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5 おわりに第5章 家事事件手続法施行後の面会交流調停事件の運営及び新たな運営モデルについて128 繰り返しになるが,家庭裁判所が面会交流調停事件において目指すものは,父母が,子の利益を最も優先して考慮した上で,相当な期間を前提とした長期的な視点に立って,それぞれの子に応じた面会交流の在り方について自主的に考え,合意に至ることができるようにすることである。新たな運営モデルは,この目的を達するためのものである。 本来,家庭裁判所の実務の運用は,合理的な範囲において広範な裁量に基づくものであり,対象とする事件に応じて適宜柔軟に対応すべきものであって,平成24年論考自体も,当時の東京家裁の事件の実情に応じた運営方針を紹介したものにすぎなかった。新たな運営モデルも,現時点における東京家裁の実情に応じたものにすぎない。したがって,今後も引き続き,そのときどきの事件の実情に応じたより望ましい調停運営の在り方を模索していく必要がある。 また,どのような運営モデルを採用したとしても,調停実務の現場において,面会交流の実施・不実施,実施する場合のその内容について何らかの先入観を持って臨み,同居親又は別居親に対する配慮が不十分な調停運営を行えば,子の利益を最優先に考慮した面会交流を検討・調整する際の妨げになることは間違いない。結局は,一つ一つの事案の解決において,ニュートラル・フラットな立場(同居親及び別居親のいずれの側にも偏ることなく,先入観を持つことなく,ひたすら子の利益を最優先に考慮する立場)で,どれだけきめ細かに当事者の言い分に耳を傾け,丁寧に働き掛け・調整・調査を行い,真に子の最善の利益を考慮することができるかに尽きると思われる。家庭裁判所は,その責務を確実に果たすことが求められている。

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