第6章1 議論の端緒1291 議論の端緒1)伊藤滋夫編『家事事件の要件事実』(日本評論社,2013年)参照2)民事訴訟においては,訴訟物(原告が審判の対象として当該訴訟において提示した実体法上の権利又は法律関係)があって,その実体法上の権利又は法律関係について発生・障害・消滅などの法律効果を発生させる実体法上の要件に該当する具体的事実を考えて,そうした要件事実についての判断(要件事実が主張され,争いがあれば,それについての立証がされたかを考えるという判断)の組合せで,訴訟物の存否について判断している(伊藤・前掲注1)84頁)。3)伊藤・前掲注1)99頁⑴ 家事事件への要件事実論導入の試み 司法制度改革によって各地に法科大学院ができ,法律学と裁判実務との架橋が叫ばれるようになり,その中で,民事事件における要件事実論が家事事件にも妥当するかが議論されるようになったことは,事の是非はともかくとして,自然の流れであったように思われる。そのような流れの中で,伊藤滋夫教授によって,家事事件と要件事実論との関係にも焦点が当てられた研究会が開催され,1)従前から当事者主義的な手続運営が行われていた遺産分割の審判等の財産的な家事事件のみではなく,面会交流事件等の非財産的な家事事件についても,要件事実論2)を導入する試みがされている。3)そこでは,家事事件にも要件事実論的思考を取り入れることが必要であると一般的に主張され,面会交流事件において,同居親・別居親の諸般の具体的事情が評価根拠事実(要件事実)となり,それと対応する法的判断と下馬場 直 志~非訟事件性(後見性),職権主義との理論的整合性等の観点から面会交流と要件事実論
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