第9章1 遺産分割事件における段階的進行モデル1831 遺産分割事件における段階的進行モデル⑴ 段階的進行モデルの特徴 遺産分割事件は,相続人の範囲を確認し,遺産の範囲を確定したうえで,遺産の評価及び相続分の修正要因(特別受益,寄与分)に基づき各相続人の相続分を算定し,その上で具体的な分割方法を定めるという階層的な構造をとる。そのため,東京家裁をはじめとして多くの家庭裁判所では,遺産分割の調停事件において,段階的進行モデルを採用する。すなわち,①初めに,相続人の範囲及び遺産分割の当事者を確認し,②その後に,遺産分割ないし調停内容の対象とする遺産その他の財産等を確定し,③さらに,各遺産の評価を確定したうえ,④寄与分,特別受益に関する主張がある場合には,それを整理して,⑤これらを踏まえた具体的な分割方法に関する各当事者の意見を調整するという段階的な進行を目指し,各当事者に対しても,そのような進行について協力を求めている(図1)。 段階的進行モデルのメリットは,当事者の主張も多岐にわたり進行も交錯しがちな遺産分割事件について,調停の進行に関する規律を予め示すことができる点にある。しかしながら,さらに大きな特徴は,当事者間において合意ができない限り(調停手続の中で解決できない限り),遺産分割事件では確定的に解決できない事項について,調停ないし審判手続ではなく民事訴訟など別途の裁判手続によって解決すべきことを示すことができる点にあると考えられる。西 澤 瑞 人遺産分割事件の審理対象に関する再考
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