裁実理
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8 おわりに第13章 ハーグ条約実施法における子の返還申立事件の運用の実際306身保護による解決を図ることが可能となった。 人身保護事件は,地方裁判所が管轄するものではあるが,終局決定内容の実現に資する方策が実施法に規定された執行方法に加えて認められたことは,条約の履行という観点からも望ましいものといえる。 実施法施行後の東京家裁における子の返還申立事件やその調停事件及び強制執行事件の運用の実情等を概観した。 審理の実情についていえば,子の迅速な常居所地国への返還という条約の理念に,家裁調査官による事実の調査や調停といった我が国の家庭裁判所が長年にわたって培ってきた家事事件における経験を組み合わせた6週間モデルという審理モデルによる運営により,迅速な審理を行おうとする努力が続けられるべきである。 実施法の解釈については,各国における条約の解釈に幅がある中で,多くの判断を通じて,我が国における解釈の方向性が明らかになってきている状況であるが,今なお,明確な判断が示されていない解釈上の問題点も存在しており,判断の集積が必要な状況が続いているといえよう。 幸いなことに,我が国の裁判所による実施法の運用は,研究者からも評価されている。50)今後も,東京家裁と大阪家裁に管轄が集中したことによる経験の集積を活かしながら,条約の趣旨に沿って実施法を安定的かつ発展的に運営していくことの必要性を指摘して本稿を閉じたい。だし書にいう補充性の要件を満たさないものと解される。古谷健二郎・安江一平ほか「東京地方裁判所における近時の人身保護請求の実情について─子や高齢者に関する事例を中心として─」家判23号44頁(2019年)50)西谷・前掲注14)57頁は,日本における条約の運用について,真摯かつ適正に行われており,欧米諸国と比較しても遜色がないと言ってよいとの評価をしている。

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