4 おわりに第16章 調停手続における通信手段の活用の実情とファストトラック審理の構想360ととするなど,ファストトラック構想は,労働審判制度を参考にした試みであり,場合によっては同席調停も取り入れる(当事者間での感情的対立がそれほどなく,双方が理性的に話ができる程度の関係性であることがファストトラック利用の前提となる。)等することにより,事案によっては早期の紛争解決が見込めるものである。 確かに,ファストトラック構想は,まだ,法的な根拠があるわけではないため,これを利用する同意があったとしても,その同意に何らの拘束力はない上,回数の目安を定めることへの当事者の理解が得られなければ,自主的紛争解決の意欲を引き出すという真の効果を得られないし,硬直的な運用に走ると,回数の目安の超過によりそれ以上の調停続行が困難となり,かえって調停の成立による当事者間の自主的解決が阻害されることなども考えられる。事案や当事者のニーズ等に応じた柔軟な対応を図りつつ,どのような場合に利用が可能か(第1回期日後に,同期日で判明した事情を踏まえてファストトラック利用の要否を判断することも考えられる。),成功例も失敗例も事案を集積しながら,検討を重ねていきたいところである。 そのためには,裁判官のイニシアティブが重要になることは言うまでもないが,書記官による当事者の書面提出等に向けた各種働きかけや調整も重要になるため,裁判官,調停委員,書記官の連携が,これまで以上に求められることになろう。 今回の検討等は,電話会議システム等のように,既存の制度をどのように運用していくかのほか,新たな試みとして構想段階のものもあるが,適正かつ迅速な裁判の要請に応え,安心かつ安全に手続を行い,当事者の主体的な関与を促す方策として検討等しているもののいくつかを紹介したものであり,今後,成果が挙げられるよう,更なる検討が行われることを期待したい。
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