裁実理
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第17章1 問題の所在3611 問題の所在1)最高裁長官の令和3年「新年のことば」においては,家事調停手続については,今般の感染症への対応を契機として,従来の運用にとらわれることなく,改めて調停の本質に立ち返った上で,適正かつ効率的な調停運営の在り方に関する検討と実践が各庁で進められている旨言及されている(裁時1757号1頁(2021年))。 令和2年は家事調停手続において,これまでの調停実務について再考する必要に迫られた稀有な年であった。というのも,新型コロナウイルス感染症への対応を契機として,当事者本人の出頭を当然の前提とする調停実務の運用が容易ではなくなったからである。各地の家庭裁判所においては,電話会議の方法による事情聴取が従来以上に活用され,当事者本人が現実に出頭しなくても調停を進行させ,家庭裁判所の役割を果たすための取組がされている最中である。1) 当事者本人の出頭との関係でいえば,これまで当事者本人の出頭が最も厳格に要請されてきた場面の一つとして,離婚及び離縁(以下,便宜上「離婚等」という。)などの身分関係の変動を伴う調停成立時が挙げられる。これについては,調停実務においてよく参照される文献(秋武77頁)においても,身分行為については,たとえ弁護士であるとしても,当事者本人を代理することは許されないことを主たる理由として,離婚調停においては,当事者本人が出頭せず,代理人である弁護士のみが出頭した場合には,離婚を成立させることはできないと説明されている。村 松 多香子身分関係の変動を伴う調停成立時に おける本人出頭原則について

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