6 道垣内弘人『信託法(現代民法別巻)』(有斐閣,2017)48頁6本判決は,かかる事案において,①本件事情は本件信託の設定当時より想定された事態であり,Aは,本件不動産から得られる経済的利益を分配することを本件信託の設定当時より想定していなかったといえること,②Cが遺留分減殺請求権を行使したとしても受益権割合が増加するのみであるところ,本件不動産から得られる経済的利益がない限り,Cは増加した受益権割合に相応する経済的利益を得られないことなどを指摘した上で,Aが本件不動産を本件信託の目的財産に含めたのは,外形上,Cに対して遺留分割合に相当する割合の受益権を与えることにより,これらの不動産に対する遺留分減殺請求を回避する目的であったと認定しました。その上で,本判決は,本件信託のうち本件不動産を目的財産に含めた部分(以下「本件部分」といいます。)は遺留分制度を潜脱する意図で信託制度を利用したものであって,公序良俗に反して無効であると判示しました。本判決は,本件部分が公序良俗違反となる理由として,Aが遺留分制度を潜脱する意図を有していたことを挙げており,いわゆる動機の不法を理由として公序良俗違反を認めたものと考えられます。この点,動機の不法については,「動機の不法性は,相手方がそれを知らない限り,法律行為の無効をもたらさないと解されているが,信託の場合,6相手方とは,受託者ではなく,受益者だと解すべきである」とする見解があります。本判決が誰を基準として動機の不法性に係る悪意の有無を判断すべきと考えているかは必ずしも明確ではありませんが,本判決が受託者Bの悪意の有無について言及していないこと,及び本件信託の当初受益者は委託者AでありAは悪意であったといえることを踏まえると,本判決は,上記見解と同様に,受益者を基準として動機の不法性に係る悪意の有無を判断したものと考えられます。また,本判決が公序良俗違反を認めた理由としては,相続法改正前の遺留
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