9_信託80
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私 見実務上の対応7分制度においては遺留分減殺請求権の行使の効果が物権的効果とされていたこと(最判昭和51年8月30日最高裁判所民事判例集30巻7号768頁参照)があったと考えられます。すなわち,本判決は,遺留分減殺請求の対象を受7益権付与行為と捉えているところ(受益権説),受益権説及び遺留分減殺請求権の物権的効果を前提とすると,Cは遺留分減殺請求権を行使したとしても受益権割合が増加するにすぎません。そのため,本件不動産に係る受益権から経済的利益を受けることが期待できない本件においては,Cは遺留分減殺請求権を行使したとしても実質的には財産の回復が図れず,遺留分制度の趣旨を没却することになり得ます。本判決はこの点を重視し(上記②参照),本件部分につき公序良俗違反を認めたものと考えられます。相続法改正により,遺留分権の行使の効果は金銭債権化されました(民法1046条1項)。そのため,仮に本件信託によりCの遺留分が侵害されたとしても,Cは,Bに対し遺留分侵害額相当の金銭の支払を請求することができることになります。したがって,相続法改正後においては,本件では上記②の事情が妥当しないため,本件部分は公序良俗違反とはならない可能性があると考えられます。なお,本件信託では,B,C,Dが受益権を取得した後に死亡した場合,Bの子供らが受益権を取得することとされているため,遺留分の侵害の有無を判断するに当たってはこの点も考慮する必要があると思われます。相続法改正により遺留分権の行使の効果が金銭債権化されたため,相続法改正前と比較すると,信託が遺留分制度の潜脱を意図したものであるとして7 ただし,本判決の判示に信託財産説に親和的な内容が含まれていることを指摘するものとして,沖野眞已「判批」私法判例リマークス59号71頁疑問2 信託設定における公序良俗による制限

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