1近年,信託の利用形態が多様化しています。受益者のために金銭を運用したり有価証券を管理したりする信託や,委託者が保有する不動産や金銭債権を流動化して資金を調達するために使われる信託のほかに,最近では,M&A・事業承継などの企業取引に用いられる信託や,成年後見や遺言を補完・代替する機能を有する信託などを多く見かけるようになりました。また,民事信託と呼ばれる分野が拡がりを見せており,信託業務を兼営する金融機関や信託会社のほかに,個人や一般社団法人などが受託者となる例が増えています。新たな類型の信託を新たな類型の当事者が設計する際には,今まで想定していなかった法律問題に直面することがあります。従来から存在する類型の信託であっても,新たな社会のニーズに応えて手直しをしようとすると,思わぬ法律問題に気づくことがあります。むしろ,実務における信託の組成過程は,そういった気づきの連続にほかなりません。本書は,信託実務に携わる信託の専門家が,自ら疑問に思う大小さまざまな法律問題を持ち寄って検討を重ねた研究会の成果です。私は,この研究会に参加する機会を得て,その成果の取りまとめに際し,監修者として関わる幸運に恵まれました。本書は,実務における悩みとその解決に向けた工夫の宝庫と言ってよいでしょう。まさにその点において,本書には独自の存在価値があります。その中に示された見解の中には,伝統的な解釈論の及ばない領域に踏み込んで検討するものが少なくないですが,そのいずれにも,信託のこころを持つ実務家による配慮が満ち満ちています。読者には,ぜひそれを吟味していただきたいところです。最後に,研究会の場や本書の取りまとめを通じて多くの刺激を与えてくださった田中和明氏をはじめとする研究会メンバーに対し,心よ監修のことば監修のことば
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