第2編・第1章 意思表示の瑕疵に関する事件(訴状起案)32を安藤さんが渋沢さんに見せ,私から「ちゃんと要望どおりになっています。」と詳しく説明しました。 同席していた女性が「大きいわね。」と言い,基本設計検討と立面図を持ち去ろうとしましたが,配置図には一部個人情報が含まれていましたので返却を求めると,基本設計検討は返してもらいましたが,立面図は持ち去ってしまいました。24 甲野 その日の話はそれだけですか。渋沢さん側から建物の数字など具体的に指摘されたことはないのですか。夏子 その日はそれだけです。具体的な数字を伴う建築制限は問題にされていません。25 甲野 その後どうなりましたか。夏子 1月22日に長沢さんから,新築建物が渋沢さんの思いと異なるものなので,23日に集まって打合せがしたいと伝えられました。それで,1月23日に,母と夫,長沢さんと私が渋沢さん宅を訪れました。そこには,渋沢さん,松本さん,先日もいた設計の女性がいました。 私たちは,お隣になる人との間にトラブルはない方がよいので,基本的に下手に出て理解を得るという方針でした。26 甲野 渋沢さんは何と言っていたのですか。夏子 渋沢さんは,当初から建物の大きさを条件にしていたと言い出しました。それで私たちの建物が約束の条件に違反しているということでした。私たちは,渋沢さんが何を根拠に私たちの違約だと言っているのか分かりませんでした。27 甲野 具体的にどういうことだったのですか。夏子 この時点でも具体的な数字は言っていませんでした。渋沢さん側から1メートルから1.5メートルという数字の話が出てきたのですが,制限としてそういう数字があったというのではなく,渋沢さん側からは「それくらい建物が南側に大きくなる程度なら妥協できるので,建物を小さくできないか。」ということでした。28 甲野 建物の大きさを制限するというのはそれまで話には出ていないのですか。夏子 私たちは,渋沢さんが建物の大きさを気にしているということは知っていましたが,大きさを制限するとは言われていません。むしろ,渋沢さんが西側に大きな窓があると目線が気になると言っていたので,西側の窓は小さくし,ベランダにも敢えて目隠しの壁を付けました。そして,南側三角地には物置も建てるなと言われ,そこは庭にしています。言われたとおりに南側に庭を設けた形です。その辺りの配慮を認めてほしいと説明しました。29 甲野 それに対して渋沢さんはどういう反応だったのですか。夏子 渋沢さんは,こんなんだったら費用を払ってでも解約したいと言いました。それで,私たちは,条件とかの話ではなく,渋沢さんは本件不動産を売りたくなくなったのだなと理解しました。 渋沢さんが「三人だからそんなに荷物もないだろう。」と言ったので,うちは父が亡くなるまでは五人家族で住んでいて,その時の荷物がそのまま残っているうえ,私たち夫婦の引っ越しの度に増えた家財があるので荷物は多い。また,母は病気のため介護のことを考えるとバリアフリーにする必要もあるし,エレベーターも付け
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