弁起案
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はしがきi 本書は,主として登録後数年の弁護士や司法修習生を対象として想定した,起案演習用の書籍である。 このような書籍は,これまでにも類書が刊行されていたとしても,何ら不自然ではないものである。 ところが,そういった書籍が刊行されていたという話は寡聞にして知らない。 それはなぜか。 本書を編む過程においては,この疑問を解消するという副次的な課題も我々著者に課せられた。そして,その課題に対する答えは,刊行までの過程で徐々に明らかとなっていった。架空の事案を仕立てる困難さ,その架空の事案を訴訟手続に乗せる形に整えるという異なる意味での困難さ,そして何よりも,民事訴訟法,民事訴訟規則の規定に即している限りは,それ以上に定まった作法,ルールがあるわけではなく,それだけに代理人によって千差万別であって然るべきはずの主張書面について,参考となる起案,課題の残る起案という位置づけにはしたものの,それなりに優劣をつけて起案例を示すことのハードルの高さは,編集者とのざっくばらんな企画検討のディスカッションの過程で,書籍の構成について半ば思いつきでアイデアを出したときに想像していた以上の隘路であった。 とはいえ,ほぼ同時期に司法研修所民事弁護教官として民事弁護教官室で机を並べ,共に司法修習生の指導にあたった三人の戦友と言っても過言ではない弁護士と久しぶりに法律論を交わした本書刊行までの時間は,楽しいひとときでもあった。 感想めいた話はここまでにし,本書を編むことになった動機についても説明しておきたい。 法曹人口の増員に伴い,近時,いわゆる即独の弁護士が増加している。その結果,いわゆるイソ弁として勤務しながら,弁護士としての業務の指導を先輩弁護士などから受ける機会がない,あるいは,乏しいまま,訴訟などで主張書面等を起案する必要に迫られる弁護士が増えている。相手方代理人という立場からみても,色々な点でもう少し工夫の余地があるのではないかという感想を抱く書面に出会う機会も増えた。 司法修習生に対し起案指導にあたっている際などには,司法修習生より,参考起案を提示してほしいとの要望や,起案する機会をもっと増やしてほしいという要望が出されることも少なからずあった。熱心な弁護士や司法修習生からは,民事弁護起案の勉強をしたいが,それに適した文献がない,といった話をされたこともこれまで1度や2度ではなかった。 本書は,このような我々の問題意識や登録後数年の弁護士・司法修習生のニーズに応えることを意図したものである。はしがき

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