⑵ 被告の錯誤取消しの主張に理由がないこと証拠方法Section 3 起案例 被告による錯誤取消しの主張は,被告が抗弁として主張して初めて反論が必要になるものであるが,本件では訴訟前のやり取りにおいて,被告が錯誤取消しの主張をすることが記録上明らかな事案である。したがって,訴状の段階で,被告の主張が成り立たないことを反論しておくことが有益である。 訴状の段階での反論は,比較的明らかな,あるいは争いのない事実を前提として,被告の主張が成り立たないことを主張しておけば足りる。 訴状には書証の写しで重要なものを添付しなければな61登記・引渡しと引き換えに残金9000万円を支払う旨を連絡するとともに,被告代理人弁護士宛にも同年2月28日に同様の通知した(甲第9号証 〔資料13〕)。3 決済の不実行 令和3年2月28日,原告は,被告の同月27日付け通知書(甲第10号証 〔資料12〕)を受領した。そこで被告は,本件売買契約を「動機の錯誤により取り消す」とのことであった(被告の動機の錯誤の主張に対しては後述)。 そして,本件売買契約の決済日である同年3月1日,原告は,本件売買残金9000万円の支払準備をして,決済場所である新令和不動産大宮支店で待機したが,被告は現れず決済が実行されなかった。4 被告による錯誤取消しの主張に対して⑴ 被告の主張の概要 被告は原告に対する通知書(甲第10号証 〔資料12〕)において,本件売買契約に際し,「本件建物の南側端から南側に計測して1~1.5メートルを超える建物を建築しないとの制限」(以下「本件建築制限」という。)を原告に課し,原告もこれを承諾していたところ,原告の建築予定建物は「南端は,本件建物より4.5メートル以上も南側に伸びることになっていた」ので,被告には「建築制限が原告によって守られる」との動機に錯誤があり,本件契約を取り消す旨主張している。 しかし,本件売買契約締結に至る過程で,被告が原告に本件建築制限を表示したことは一度も無い。売買契約に買主に建築制限という重大な制限を課したのであれば,契約書及び重要事項説明書に規定されてしかるべきであるが,本件売買契約書(甲第3号証 〔資料1〕)及び重要事項証明書(甲第4号証 〔資料2〕)にはそのような規定は存在しない。 原告は,被告が,新築建物が既存の本件建物より大きく南にはみ出して建築して欲しくないという希望を有していることは認識していたが,原告が新築建物の配置等について被告と何らかの約束をしたことは一度もなく,被告から令和2年1月23日までに,具体的な建築制限を示されたこともない。 したがって,被告の「動機の錯誤により本件売買契約を取り消す」との主張は全く根拠を欠くものである。甲第1号証 〔資料10〕 全部事項証明書(土地)
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