逐条ガイド相続法―民法882条~1050条―
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〜1 上述の定義のうち,「包括的に承継すること」を包括承継主義という。これは,ヨーロッパ大陸法系の相続制度であり,それを継受した我が国の相続制度の基礎にある主義である。すなわち,遺言で財産承継が行われない場合には,積極財産および消極財産(≒債務)を含めた全ての相続財産が包括的に相続人に相続されることになる。相続人が,一部の財産だけを選択的に相続するとか,積極財産は相続するが消極財産は相続しないとかいうようなことは許されない。相続人には,原則として,包括的に相続するか(896条参照),それとも相続しないか(=相続放棄。939条)という選択肢が与えられる。2 清算主義 ヨーロッパ大陸法系の包括承継主義に対置される概念として,「清算主義」が存在する。これは,英米法系の相続制度であり,英国を発祥とし,その植民地であった米国,豪州,ニュージーランドなどに継受された。これらの国では,遺言で財産承継が行われない場合には,裁判所が遺産管理第1章 総則 総則882条885条【前注】Ⅰ 相続法の概要 相続とは何か。相続は多義的かつ重層的な意味を有するため,端的に表現することは困難である(柳田國男監修『民俗学辞典』(東京堂出版,1951)325頁以下)。 一般的には,相続とは,「死者の生前にもっていた財産上の権利義務を他の者が包括的に承継すること」である(高橋和之ほか編集代表『法律学小辞典』(有斐閣,第5版,2016)811頁以下)。1 包括承継主義第1章 総則民法 第5編 相 続

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