逐条ガイド相続法―民法882条~1050条―
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〜2者(人)を選任し,同人が被相続人の債務を弁済するなど相続財産の清算手続を行う。そして,清算手続の終了後,残余の財産が存在すれば,同人が相続人に残余財産を引き渡すのである。1 前 史2 民法・相続法制定─明治31(1898)年(法律9号)総則882条885条第1章 総則  我が国では,江戸時代までの近代以前においても,自覚的であったかどうかは別として,包括承継主義的な相続慣行が行われていた。その意味において,大陸法系の包括承継主義は,我が国の社会にとって,受け入れやすい制度であったとみることも許されるであろう。 ところで,江戸時代までの近代以前の我が国の相続制度は,身分・地域によって大きく異なっていた。 武士階級については,幕府法と各藩法が重畳的に存在してはいたものの,徳川300年を経て制度的には確立していた(鎌田浩『幕藩体制における武士家族法』(成文堂,1970)101頁以下)。 他方,庶民階級については,地域によって様々な制度が存在していた。多様性は,男女を問わず常に初生子を家督相続人とする場合で初生子が女子の場合の「姉(あね)家督相続」,最後の男子(末男子)を家督相続人とする「末子相続」といった言葉が存在することからも明らかである。姉家督相続は東北地方の漁村では珍しくない慣行であり(「男は,いつ海で死ぬかも知れないから」前掲・柳田監修7頁),また,諏訪盆地の末子相続については中川善之助博士による著名な研究がある(中川善之助『民法風土記』(講談社学術文庫,2001)102頁以下)。 そして,身分・地域によって大きく異なっていた相続制度が,民法の制定によって,全国一律の相続制度に転換を迫られることになるのである。 明治31年に制定された民法第5編相続は,江戸時代の武士階級の相続制度(中身)に,近代民法の外観(皮)を被せたような制度である。 すなわち,戸主の身分を相続する制度としての家督相続が冒頭に置かれ(旧民964条),家督相続人は長男子が原則であり(旧民970条1項),法定家督相続人は相続を「抛棄(=放棄)」できないとされた(旧民1020条)。この相続放棄の禁止は,親の債務を子の責任とする,儒教的な「父債子還」に由Ⅱ 我が国の相続法の歴史

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