逐条ガイド相続法―民法882条~1050条―
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2 戸籍上の相続人は存在しないが包括受遺者が存在する場合3 戸籍上の相続人は存在しないものの,相続人が未確定の場合236相続人の不存在951条959条〜第6章 相続人の不存在╱第951条(相続財産法人の成立)より相続資格を喪失した場合をいう。戸籍上の相続人が所在不明または生死不明の場合には,本条の成立要件には該当せず,不在者財産管理(25条以下)または失踪宣告(30条以下)の手続による(東京高決昭和50・1・30判時778号64頁)。 戸籍上の相続人が存在せず,相続財産の全部が包括遺贈されている場合,本条の成立要件に該当するか否かが問題となる。 学説は,①包括受遺者が相続人と同一の権利義務を有すること(990条)に着目し,本条の成立要件を満たさないとする立場(中川=泉452頁)と,②包括受遺者が相続人と同一の権利義務を有するのは相続財産に対する権利義務についてのみであり,その他の法律関係には及ばないと解し,本条の成立要件に該当するとする立場(新版注釈680~681頁〔金山正信=高橋朋子〕,二宮343~344頁)に分かれる。 この点に関して,判例(最判平成9・9・12民集51巻8号3887頁)は,相続財産の全部を1人の者に包括遺贈(全部包括遺贈)した事例において,①を採用し,本条の成立要件には該当しないとした。同様に,包括遺贈の受遺者が複数人あるときでも,結果として相続財産の全部が包括遺贈された場合には,本条の成立要件に該当しないと考えられている(潮見117頁)。 なお,相続財産の一部についてのみ包括遺贈がある場合には,相続財産の残部について成立要件該当性を認めるとする見解(中川=泉452頁)と,遺産の一部のみの清算は好ましくなく,遺産の国庫帰属は極力避けるべきであるとして,一部包括遺贈の受遺者が全相続財産を取得するとの見解がある(鈴木130頁)。後者の見解については,一部包括遺贈の受遺者が受遺分に加えて遺産の残部全てを取得する根拠に乏しく,また,割合的包括遺贈をした遺言者の意思にも合致しないとの批判がある(新基本コメ相続165頁〔副田〕)。 被相続人に関する人事訴訟(離婚無効の訴え,離縁無効の訴え,認知の訴え,父を定める訴え等)が係属しており,相続人が未確定の場合に本条の成立要件該当性が認められるかが問題となる。 学説は,①相続人が未確定とはいえ,相続開始時に相続人の存否が不明であることには相違なく,判決確定前の清算等の不都合は,家庭裁判所が

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